抗がん剤を受けずに、仕事をするという選択
実はJさんは40代前半に、初期の乳がんを発症している。最初に診察を受けた病院では、抗がん剤の投与を受けてから、患部摘出の手術をするように診断された。
「仕事に影響が出るので、抗がん剤治療を受けたくなかったのです。そこでセカンドオピニオンとして、現在も治療を続けている病院の先生の診断を仰ぐことにしました」
乳がん治療の名医でもあるそのドクターは「手術をしなければならないが、取ったがん細胞の性質を見ながら考えていきましょう」と、Jさんに寄り添った治療方針を打ち出してくれた。
しこり部分のみ切除して組織検査に出したところ、Ki-67という乳がんの増殖能力を示すマーカー値が高く、抗がん剤を投与するか否か微妙なラインだったのでアメリカに遺伝子検査に出した。結果は再発率10%以下。放射線治療の後、ホルモン療法を受けることになる。
「会社をそんなに休まなくても仕事ができる」とJさんは希望を持ったが、問題は会社側にあった。
当時の上司が、彼女の意思を確認せずにメインの仕事から外してしまう。
「ゆっくり体を休めたほうがいい」という一見優しい申し出だったが、明らかな“がんハラスメント”だ。
「ちゃんと仕事はできます!と抗議しましたが、受け入れられませんでした。会社を辞めようかと迷ったこともあったけれど、“負け”だと思い、とどまりました」
どんなときでも、自分らしくありたい!
「乳がんの患者の会に参加することがあります。
末期の乳がん患者の私がフルで仕事をしていると言うと驚かれたり、喜ばれたり、意見を求められたり。
そうやって人とつながること、世の中に還元できることが生きる希望なのです」
日頃の人間関係を、良好にすることの大切さ
Yさんは社内のムードメーカーで、世話好きなお姉さんタイプ。
だからこそ、病気になったことで“元気印”のイメージを失いたくなかった。
そんな彼女の病院通いを知られることがないように、上司が優しい気遣いをしてくれる。
「私の仕事を一緒にやってくれたり、深夜勤務になりそうなときは同僚に仕事をふるなど、さりげなくフォローしてくれました」
人生、いつ何が起こるかわからないし、自分ではどうにもならないときがある。そのためにも、日頃から周囲との人間関係を良好にしておくことはとても大事だ。もし逆の立場になったら、その人の力になりたいと彼女は言う。
「病気を知っている総務部の担当者に、産業医との面談をすすめられました。その医師から夜10時以降は仕事をしないほうがいいとアドバイスされて。
そこでかかりつけの医師に診断書を書いてもらい、会社に深夜労働の免除を申請しました。そんな制度があるとは、初めて知りました。
周囲のサポートに、ただただ感謝しています」