日本における自殺の現状
平成10年以降、14年連続して日本国内の自殺者数が3万人を超える状態が続いていましたが、平成24年 に15年ぶりに3万人を下回りました。また、平成22年以降は9年連続の減少となり、平成30年は2万840人で昭和56年以来37年ぶりに2万1,000人を下回りました。わが国の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は主要先進7カ国の中で最も高くなっています。
自殺者数の推移
自殺者の推移
主要国の自殺死亡率
主要国の自殺死亡者
自殺死亡率が低下してきている一方、若年層では、20歳未満は自殺死亡率が平成10年以降ほとんど減少していない状態です。また、20歳代や30歳代における死因の第1位が自殺であり、自殺死亡率も他の年代に比べてピーク時からの減り方が少なくなっています。
自殺対策の枠組み
平成10年以降、自殺者数が3万人を超え続けていたことを受けて、平成18年に「自殺対策基本法 」が制定されました。また、平成28年 には、都道 府県、市町村に自殺対策計画を義務づけるなどとする改正が行われました。 さらに、政府が推進すべき自殺対策の指針として平成29年7月に「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」が閣議決定 されました。
この自殺総合対策大綱では、
・地域レベルの実践的な取組の更なる推進
・若者の自殺対策、勤務問題による自殺対策の更なる推進
・自殺死亡率を先進諸国の現在の水準まで減少することを目指し、令和8年までに平成27年 比30%以上減少させることを目標とする
としています。
この目標の実現に向け、国、地方公共団体 、関係団体、民間団体等が連携・協働するため、また、中立・公正の立場から施策の実施状況、目標の達成状況等を検証し、施策の効果等を評価するため、「自殺総合対策の推進に関する有識者 会議」を開催しています。
迷信(myth)と事実(fact)
自殺について語ることは良くない考えであり、自殺を助長するものと捉えられてしまう可能性がある。
世間に広く存在する自殺への偏見を考慮すると、自殺を考えている人の多くは誰にそのことを話せばいいのかわからない。隠し立てせずに自殺について語り合うことは、自殺関連行動の助長ではなく、その人に自殺以外の選択肢や決心を考え直す時間を与えることができる。結果として、自殺を防ぐことにつながる。
自殺について語る人は自殺するつもりはない。
自殺について語る人は、外側に向けて助けや支援を求めているのかもしれない。自殺を考えているきわめて多くの人が、不安、うつ、絶望を感じており、自殺の他に選択肢がないと考えている可能性がある。
自殺を考えている人は死ぬ決心をしている。
反対に、自殺を考えている人は「生きたい」気持ちと「死にたい」気持ちの間で揺れ動いていることが多い。例えば、農薬を衝動的に飲んでしまい、生きたいと思っても数日後に亡くなることがある。正しいタイミングで情緒的支援にアクセスすることができれば、自殺を防ぐことができる。
自殺の多くは何の前兆も無しに突然起きる。
自殺のほとんどの事例で自殺前に、言葉か行動に周囲の人が気づくような兆候(warning sign )を示していた。もちろん兆候無しに起きる自殺もある。しかし、周囲の人が気づくような兆候とはどのようなものかを理解し、それに注意を払うことが大切である。
一度自殺を考えた人は、ずっと自殺したいと思い続ける。
自殺リスクが高まることは一時的なものであり、その時の状況に依存することが多い。自殺念慮 が繰り返し起きることはあるかもしれないが、長く継続するものではなく、過去に自殺念慮 や自殺未遂があった人でも、その後の人生を長く生きることができる。
精神疾患 のある人だけが自殺を考える。
自殺関連行動は深い悲しみや不幸を示すものであるが、必ずしも精神疾患 があることを示すものではない。精神疾患 がある人の多くは自殺関連行動を示すことはなく、自ら命を絶った人すべてに精神疾患 があった訳ではない。
自殺関連行動は容易に説明することができる。
自殺は単一の要因または単一の出来事から生じた結果ではない。人を自殺へ追い込む要因は多様かつ複雑であることが多く、単純化 して報道すべきではない。自殺関連行動を理解しようとする上では、保健、精神保健、ストレスを感じるような人生の出来事(stressful life event)、社会的要因、文化的要因を考慮する必要がある。衝動性の存在も大きな要因である。精神疾患 はその人の生活上のストレス要因や人間関係の葛藤に対処する能力に影響を与えることがあり、精神疾患 のある人は自殺のリスクが高くなる傾向にある。しかし、精神疾患 だけで自殺を説明しようとするのは不十分である。ほとんどの場合、自殺は試験の失敗や人間関係の破綻といった、特定の出来事が原因であるという誤解につながって行く。死因がまだ十分に解明されていない状況では、原因やきっかけについて時期尚早な結論を出すのは適切ではない。
自殺は困難な問題を解決する適切な手段である。
自殺は問題対処の建設的または適切な手段でもなければ、深刻なうつ状態 への対応や苦しい生活状況に対処する唯一の方法でもない。自殺念慮 の経験を持ちながら苦しい生活状況に上手く対処できた人の報道記事は、現在自殺関連行動を考えている可能性のある人へ、実行可能な他の選択肢の存在を示すことができる。また自殺は家族、友人、コミュニティー 全体に甚大な影響を与える。そうした人々は自分が見逃した兆候があったのではないかと戸惑ったり、罪や怒りの感情を引き起こしたり、汚名を着せられた、あるいは社会から見捨てられたと思ったりすることがある。このような複雑な力動を慎重に追及する自殺報道は、悲しみに暮れる遺族を非難することなく、遺族へ適切な支援を提供するために必要なものを人々に伝えることができる。