認知症の中核症状とは
認知症で、脳の細胞が死ぬ、脳の働きが低下することによって直接的に起こる記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などの認知機能の障害を中核症状と言います。
中核症状が本来の性格や本人を取り巻く環境などに影響して現れる妄想、抑うつ、興奮、徘徊、不眠、幻覚、意欲の低下などの精神機能や行動の症状を周辺症状と言います(図)。

記憶障害
認知症で早くからみられる障害では、新しいことを覚えられなくなり、さっき聞いたこと、したことを記憶することが難しくなります。次第に、覚えていたことも忘れるようになっていきますが、自分が子供の頃の記憶など、昔の出来事は比較的覚えています。
見当識障害
見当識とは今がいつ(時間、年月日、季節)で、ここがどこ(場所、何をしているのか)という、自分が今、置かれている状況を把握することです。自分と他人との関係性の把握も見当識に含まれます。
見当識の「いつ」が障害されると、今が何時なのかがわからなくなり、「約束の時間を守れない」、「予定通りに行動することができない」などがみられます。「今日が何月何日なのか」、「自分は何歳なのか」ということもわからなくなり、季節感も薄れて、「季節に合わない服装をする」ことがみられます。
「どこ」が障害されると、「道に迷う」ことや、「自分の家のトイレの場所がわからなくなる」、「ものすごく遠いところに歩いてでかけようとする」ことなどがみられます。
自分と他人との関係性が障害されると、自分と家族との関係や、過去に亡くなったという事実もわからなくなり、「自分の息子を『お父さん』と呼ぶ」ことや、「亡くなった親に会いに行くと言う」ことなどがみられます。
理解・判断力の低下
理解することに時間がかかるようになり、情報を処理する能力も低下して、一度に2つ以上のことを言われる、早口で言われると理解することが難しくなります。いつもとは違う出来事が起こると対応できず、混乱することがみられます。
目に見えないものが理解しにくく、自動販売機や駅の自動改札機、銀行のATMなどを前にすると、どうすれば良いのかがわからなくなります。
あいまいな表現も理解・判断しにくく、例えば「暖かい恰好をしてね」と言われても理解できず、「セーターとコートを着てね」と具体的な指示が必要になります。善悪の判断もつきにくくなります。
実行機能障害
実行機能障害とは、物事を行う時に計画を立て、順序立てて効率良く行うことが難しくなります。
食事の支度をする時には、冷蔵庫にあるものを確認してメニューを考え、足りないものを買い出しに行き、冷蔵庫にあるものと合わせて、予定していたメニューをつくることを一連の流れとして行います。買おうとしていたものがスーパーで売っていなくても、他のもので代用するなど、予想外のことが起こっても他の手段を考えて適切な対処ができます。料理をする時は先に炊飯器のスイッチを押しておき、その間におかずを作るなど、効率を考えて同時に進めていくことができますが、実行機能障害では、「○○と△△でみそ汁を作る」、「炊飯器のスイッチを押す」ことはできても、必要な情報を統合して遂行することが難しくなります。
言語障害(失語)
言葉の理解・表出が難しくなります。音として聞こえていても、ことば、話として理解できない、自分が思っていることを言葉として表現する、相手に伝わるように話すことが難しくなります。

失行・失認
失行は、「お茶を入れる」、「服を着る」、「スプーンを使ってご飯を食べる」など日常的に行っていた動作や物の操作が運動機能の障害がないにもかかわらず行えなくなります。
失認は、自分の身体の状態や自分と物との位置関係、目の前にあるものが何かを認識することが難しくなることです。半側空間失認では、自分の身体の半分(左側または右側)の空間が認識できず、「ご飯を半側だけ残す」、「片方の腕の袖を通し忘れる」などがみられます。
脳の神経細胞が壊れ始め認知機能が衰えることで発症
中核症状の代表は記憶障害と見当識障害
中核症状の代表は「記憶障害」でしょう。人間の記憶には、料理の仕方や自転車の乗り方といったからだで覚える「手続き記憶」、人や地名など学習して得た「意味記憶」、個別の体験を記憶している「エピソード記憶」があります。アルツハイマー型認知症の場合、最近の記憶(近時記憶)やエピソード記憶から忘れていく傾向があります。次第に意味記憶や、若い頃の印象深い経験(遠隔記憶)なども忘れていきます。
つぎに目立つのは「見当識障害」で、時間や場所、周囲の人などを認識する力の低下です。最初は「時間の見当識(今がいつか)」が低下し、次第に「場所の見当識(ここはどこか)」「人への見当識(この人は誰か)」が障害されます。なお、MCIの段階で見当識障害はないので、認知症との判別に使われることもあります。
●記憶障害(近い記憶から抜け落ちてしまう)
「近い記憶」と「エピソード記憶」から失われるので、さっきまで何をしていたのかという具体的な行動を忘れてしまう。進行すると、知識や言葉(意味記憶)、遠隔記憶も忘れてしまう。
●失語(言葉が出ない・意味がわからない)
失語には「言葉が出てこない」のと、「言葉を理解できない」の2種類があるが、脳のどの部分に障害が出るかによって違う。読み書きができなくなる場合もある。
●失行(衣服の着方を忘れてしまうことも)
手足の運動機能に問題がないにもかかわらず、簡単な日常の動作ができなくなる。衣服の脱ぎ着ができない、使い慣れた道具の使い方がわからなくなるなどといった行動にあらわれる。
●失認(見えているのになんだかわからない)
視覚にも聴覚にも問題がないのに、見えているもの、聞こえている音が何なのかわからなくなる。物だけでなく、人の顔や街並みもわからなくなるので、迷子の原因になることも。
●見当識障害(自分の置かれた状況を見失う)
最初に時間の見当識が失われるので、今が何月か自覚できず、季節に合わない服装をしてしまうことも。場所の感覚を失う場合には、道に迷ったり、遠くまで行って戻ってこられなくなることもある。
●実行機能障害(段取りよく行動できなくなる)
料理をするとき、部屋を掃除するとき、買い物をするとき、無意識のうちにしている段取りなどができなくなる。支払いに硬貨が使えなくなるなど、当たり前にしていたことが難しくなる。
●理解・判断力の障害(困ったことがあると対処できずうろたえる)
「寒いと感じても、1枚多く服を着ることが思いつかない」「病院に行ったら休みだったので、ずっと外で待っていた」というように、場に応じた判断ができない。抽象的なことを理解しにくい。