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作業をすれば元気になれる!作業療法ノススメ。

精神科のアウトリーチ。訪問看護について。退院した患者の在宅生活をフォローする。

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精神科のアウトリーチ

入院期間は長く、退院後の患者支援は手薄-。そんな日本の精神科医療を見直す動きがある。看護師や作業療法士らが、退院した患者を訪問する「アウトリーチ」で、服薬継続や就労を支援し、患者の日常生活を軌道に乗せる。アウトリーチの実績のある医療機関では、救急搬送や本人同意のない入院が減る効果も出ている。最先端の取り組みを取材した。(佐藤好美)

                   

 千葉県旭市国保旭中央病院(田中信孝病院長)の「こころの医療センター」では毎朝、恒例のミーティングが開かれる。

 集まるのは、約10人の「訪問・地域生活支援チーム」のメンバー。看護師や作業療法士、就労支援の専門家などが、前日訪問した患者の情報などを担当医らと共有する。

 ある患者には気分の落ち込みが見られた。「少し怪しいですが、本人は酒は飲んでいないと言っています」

 別の患者については、「今日はトマト農家へ面接に行くそうです。うまくいかなければ、親族に仕事探しを相談することも検討しています」と報告された。この患者は仕事探しの最中で、スタッフはそのサポートもしている。

 

チームが訪問するのは、比較的症状の重い退院後の患者約100人。作業療法士の片倉知雄さんは「緊急性がなくても、ほかのスタッフのアイデアがほしいときもある。治療決定権のある医師がミーティングに参加してくれるのは、とても役立つ」という。

 60代の統合失調症の男性は2年前、約30年の入院生活を終えた。入院が超長期にわたった理由は複数ある。身の回りのことが1人でできず、幻聴や独り言が絶えなかった。腎臓疾患があり、人工透析を導入すべきか、導入しても自分で管理できるか、スタッフの間でも意見が分かれた。

 だが、男性自身が退院を希望し始めると、病状も改善。退院して透析を導入し、今はアパートで1人暮らし。スーパーや薬局などで接する人が増え、生活自体がリハビリになっている。配食や家事援助も利用し、「やっぱり自由だし、病院より家がいい」と言う。この日、男性宅を訪れた訪問看護師は「ぼくらは管理者ではなく支援者。コインランドリーで洗濯をしたり、一緒に買い物もする」と話した。

 チームは、本人だけでなく家族や支援する人からの相談にも24時間対応し、臨時で訪問もする。片倉さんは「退院直後は日に3回訪問することもある。患者さんが落ち着き、いつの間にか回数が減っていくのが、いい支援」と解説する。

国保旭中央病院は約10年前から、精神科の入院患者の地域移行に取り組んでいる。地域移行は、ただ退院させればいいわけではない。治療に目配りしながら患者の生活を整え、改善する力を引き出す。

 多職種チームは患者の服薬継続を支援する一方、食事や入浴、ゴミ出しなどにも目配りし、生活の安定に力を入れる。外来では受診が途切れないよう声をかけ、通いで利用するリハビリプログラムに、料理やスポーツ、音楽など多様なメニューを用意する。

 生活環境の整備には、地域の福祉サービスが不可欠だ。神経・精神科の青木勉主任部長は「地域移行は、病院だけでなく、地域がよくならないと進まない」と明言する。賃貸住宅を提供する民間事業者や社会福祉法人の存在は必須。仕事を提供するNPO法人も重要だ。仕事ができるようになると、患者自身が自信を取り戻し、安定していく。

移行支援の開始から10年を経て、退院後の支援が、患者の急変や悪化も減らすことが分かってきた。平成16年には年間1440件に上った精神科の救急患者は、26年には569件に減少。患者の状態が深刻なために生じる「非自発的な入院」も、127件から23件に減少した。統合失調症などの患者の再入院率も低下した。「日常」を支えることで患者が安定し、悪化を防げる可能性がある。

 結果的に、精神科の病床は237床から42床に減少。同科の平均在院日数は269日から47日に短縮した。青木主任部長は「人口当たりの精神科の病床が日本よりずっと少ないイタリアやカナダでは、病気を経験した人が仕事に就き、他の患者を支えている。退院には労力と時間が必要だが、今は診療報酬で十分な評価がされていない。医療と保健と福祉がもっと連携していく必要がある」と話している。

■地域サービスの充実がカギ

 精神科領域の「アウトリーチ」は精神科医、看護師、作業療法士精神保健福祉士などの多職種で構成され、病気を経験した当事者が入ることもある。長期入院後の退院者のほか、入退院を繰り返して病状が不安定な人や、診療を中断してしまった人などに緊急時を含む訪問支援を行う。保健所や市区町村、障害福祉介護保険の事業所とも連携して、コミュニティーでの生活を整えるのが特徴だ。

 こうした取り組みの広がりを目指して、国は平成26年度からは診療報酬もつけている。だが、受け皿となる地域サービスの不足もあり、浸透は今一つだ。

 30年度からの「障害福祉計画」作成では、都道府県は在宅患者の見込み数を算出。地方自治体はそれをもとに、必要となる在宅サービス量を見積もる。厚生労働省は同年度に「自立生活援助」など新しいサービスも作る。支援員が障害のある人の生活上の課題や体調変化、地域住民との関係などの相談に乗ることが想定されている。

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精神科訪問看護

精神疾患がある人の暮らしを支えるため、訪問看護の重要性が増している。国は病院や入所施設から地域への移行を進めているが、周囲の偏見はいまだに根強く、孤立感を抱く人が少なくないからだ。看護師は医療面だけでなく生活や人間関係の相談にも乗り、心のよりどころとなっている。

 「おはようございまーす」。6月下旬、東京都武蔵村山市の一軒家。訪問看護ステーション「卵」の看護師、原子英樹さん(57)が訪れた部屋は、カーテンが閉められ薄暗かった。待っていたのは統合失調症の男性(27)。原子さんは床、男性は布団の上であぐらをかいた。近すぎず遠すぎず、男性に圧迫感を与えないよう配慮した定位置だ。

 「最近、地震が多いね」。雑談を交えつつ、食事や睡眠を取れているか確認する。「聞きたかったことがあるんですけど……」。男性が薬や障害年金の更新について矢継ぎ早に質問すると、原子さんは血圧を測りながら相談に応じた。

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