せん妄について
せん妄とは、時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まる場合が多く、注意力や思考力が低下して様々な症状を引き起こします。通常は継続しても数日間ですが、まれに数ヵ月間続く場合もあり、的確な処置が行えないと昏睡や死に至ることもあります。1日の中でも症状の強弱があり、夕方に悪化する傾向がみられます。
せん妄の症状
せん妄の症状には、睡眠障害、幻覚・妄想、見当識障害、情動・気分の障害、神経症状があります。
睡眠-覚醒リズムの障害
不眠、生活のリズムの昼夜逆転、覚醒している時は半分眠っているような、寝ぼけた状態となり、睡眠中は落ち着きがなく良く動きます。
幻覚・妄想
実際にはいない虫・蛇などの小動物や人が見える幻視や恐ろしい幻覚、記憶や経験を本来の出来事とは違って解釈してしまう妄想などがみられます。
見当識・記憶障害
現在の時間や場所が急にわからなくなることや最近のことを思い出せなくなります。
情動・気分の障害
イライラ、錯乱、興奮、不安、眠気、活動性の低下、過活発、攻撃的、内向的など感情や人格の変化が起こります。
不随意運動などの神経症状
手の震えなどの神経症状はアルコールせん妄に多くみられます。
せん妄の原因
せん妄の原因には、各疾患、加齢、薬、入院・手術によるものがあります。
疾患によるもの
脳卒中、認知症、パーキンソン病、神経変性疾患、髄膜炎、脳炎、電解質異常、腎不全、癌、甲状腺機能異常、インフルエンザなど
加齢によるもの
- 高齢者では、若年者では影響のない疾患や薬剤でもせん妄が起こりやすくなります
- 脱水、尿路感染症、便秘、インフルエンザ、睡眠不足、ストレス、チアミン・ビタミンB12欠乏症、合わない眼鏡や補聴器の使用や社会とのつながりを絶たれることによる感覚遮断など
薬の副作用によるもの
- 違法薬物の使用や急性アルコール中毒、モルヒネ、鎮静薬、睡眠補助薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、コルチコステロイド薬、筋弛緩薬、パーキンソン病治療薬(レボドパ)など。
- 長期間服用していた薬剤を急に断った時にも症状が出ることがあります。
入院・手術によるもの
特に外からの情報が遮断され、夜間は機械音が響いて不眠となりやすい環境のICU(集中治療室)や、手術で使用する酸素や鎮静剤の影響、ストレスなど
せん妄の診断
問診・情報収集
せん妄状態にあると本人は会話の受け答えができないことが多いため、家族などの付き添い人が、いつから症状が起こったか、症状の進行・変化の内容、身体面・精神面の健康状態、薬の服薬状況などの問診を受けます。その他、過去の診療記録や警察や救急隊からの情報収集、現在に至るまでの行動が把握できる証拠物などの収集を行い、いつから変化が起こったのかを見つけます。
診察・検査
せん妄が起こっていれば注意力や判断力、見当識が低下するので、単語や短文の復唱、理解力、記憶、物品の呼称、文章を書く、図形を書き写す、空間認知、計算力などのテストを行います。
せん妄の原因となる脱水や感染症などの徴候がないかの診察、脳や脊髄、神経の疾患がないかCT、MRIなどの画像検査や脳脊髄液を調べる検査、尿検査、血液検査、心臓・肺の機能評価のための心電図検査、血中酸素濃度、レントゲン検査などが行われます。
高齢者のせん妄は認知症と間違われやすく、鑑別をする必要があります。せん妄は意識レベルの変化を伴い、一過性の症状ですが、認知症は意識障害がなく、慢性的な経過をたどります。他にもうつ病や他の精神疾患との鑑別を図るための診断をします。
せん妄の治療
せん妄が起きている原因に対しての処置・治療を行い、患者が落ちつき、安心できる環境を整えます。ほとんどの症例で入院治療を行います。
薬物療法
ブドウ糖(低血糖)、抗生剤(感染症)、水分と電解質(脱水)、ベンゾジアゼピン系薬剤(アルコール依存からの離脱症状)、抗精神病薬・鎮静薬(興奮状態の鎮静、睡眠導入)
環境調整
医療者や家族から話しかけ、時間や場所を伝えることで患者を安心させます。部屋は明るくして、部屋にあるものや人が把握しやすいようにし、患者が落ち着ける環境に整えます。時間、日にち、場所、家族関係などがわかりやすいように、時計やカレンダー、写真などを掲示し、必要であれば眼鏡や補聴器も手の届くところに準備しておきます。
せん妄の予防とケア
- 高齢者の場合は、脱水や便秘、尿路感染症や睡眠不足が原因となることもあります。昼間活動をして、夜に眠る生活リズムを崩さないようにし、水分補給やトイレを促して体調を整えましょう。
- 環境の変化によるストレスも原因となることがあるので、住み慣れた環境を大きく変えないように注意しましょう。
- 興奮状態にある場合や幻覚がある場合は、周りの人や患者自身の怪我に気を付け、手にして危ないものは置かないようにしましょう。点滴やチューブ、カテーテルなどを抜いてしまう恐れもあるので、家族や代理の人が付き添うようにします。あらかじめ、抑制帯で対応する場合もあります。
- 高齢者では脱水、転倒、褥瘡(じょくそう)、失禁、低栄養などを起こしやすいので医師、看護師、理学療法士、作業療法士などのチームで対応し、二次的な障害を予防します。
うつ病との見分け(鑑別)
てんかん発症の危険性
非特異的な臨床症状
高齢者に起こるてんかんは複雑部分発作が多いという特徴があります。つまり、てんかん症状として、けいれんがなく、意識が障害されることが多いことから誤診されるケースが多くみられます。また、部分発作でも全般発作のようにみえる二次性全般化発作を起こすこともあります。
高齢者てんかんは、側頭葉てんかんが最も多く(約7割)、次いで前頭葉てんかん(約1割)と考えられています。
側頭葉てんかんとは
高齢者に多いてんかん発作型
高齢者に起こるてんかんは大部分が症候性てんかん(脳に何らかの障害が起こったり、脳の一部に傷がついたことで起こるてんかん)で、二次性全般化により全身けいれん発作を起こすこともありますが、単純部分発作(意識がはっきりしている)や複雑部分発作(意識障害が伴う)が多く、特に1日に何回も起こる複雑部分発作が多いといわれています。この発作はけいれんを伴わない(非けいれん発作)ために見逃されることが少なくありません。また、自動症があってもあまり目立たず、単純部分発作の前兆が少ないという特徴があります。さらに、発作後にはもうろう状態が続くことも多く、数日間続くことがあります。 少数例ですが、特発性全般てんかんや前頭葉てんかんで非けいれん性の重積発作を示すことがあります。
さらに、若年期に発病したてんかんが治っていたのに再び出現したり、中年期以降に特発性全般てんかんが発病し、そのまま継続する患者さんもみられます。これらのてんかんは、全般強直間代発作、ミオクロニー発作、非けいれん性もうろう状態を示し、幻覚状態や反応性の変動などを示します。
また、非けいれん発作による重積状態がみられることがあります。複雑部分発作による重積状態は、意識障害以外に特徴的な症状がみられないことが多いので注意が必要です。
てんかんと記憶障害

高齢者てんかんでは複雑部分発作が多く、発作中は意識障害のため記憶がありません。また、発作後はもうろう状態が続くこともあり、さらに発作の回数が多いことから、高齢者てんかんの半数に記憶障害が自覚されます。複雑部分発作は非けいれん性であるため、てんかんであることを見逃されると、認知症と誤診される可能性もあります。
高齢者てんかんと認知症との違い
- 状態が良い時と悪い時の差が大きい。
- 記憶がない時とある時が混在する。
- 意識が短時間(3~5分)とぎれることがある。
- 自動症(体をゆする、ボタンをいじる、など)がみられる。
- 睡眠中にけいれんがある。
薬を減らすこと
ポリファーマシー
「ポリファーマシー」は、「Poly」+「Pharmacy」で多くの薬ということですが、多くの薬を服用することにより副作用などの有害事象※を起こすことです。ポリファーマシーが多剤併用ということではなく、多剤併用が悪いことでもありません。
(※薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない、あるいは意図しない微候、症状、または病気のこと:公益社団法人日本薬学会「薬学用語解説」より)
高齢者になると、多くの薬を併用する(多剤併用)ことが多くなります。
多剤併用により、診療科が異なる場合などの複数の処方、アドヒアランスの低下などのさまざまな要因により、予測不可能な有害事象が起こる可能性が高くなります。
このようなポリファーマシーを防ぐため、病院などでは老年科担当薬剤師の設置、処方カスケードを減らすなどの対処をしています。また、外来患者が多い昨今では薬局での薬剤師の役割が重要となってきます。
薬局では、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師の時代になり、処方薬の一元管理、そして市販薬の服薬状況、お薬手帳の説明と有効活用、服薬コンプライアンスの向上のための一包化さらにOD錠などへの剤形変更でのアドヒランスの向上、併用薬の相互作用などのチェックなどを積極的におこなっています。