15~39歳頃までの思春期と若年成人(Adolescent and YoungAdult)を指すAYA世代。この世代のがん患者には進学、就職、結婚など中高年とは違った課題が存在する。38歳で子宮頸(けい)がんと診断されたフォトグラファーの木口マリさん(45)は1年で4度の手術を経験。「命の限りを意識したことで、豊かな人生を送れるようになった」と語る。
子宮頸がん
子宮頸がんだと分かったのは平成25年5月でした。その年の1月ごろから、不正出血が気になって婦人科のクリニックに通っていました。子宮頸がんの検査を受けても結果は正常。ただ、先生も気になるところがあったようで通院を続け、精密検査を受けたんです。1週間後くらいに看護師さんから「すぐに来院してください」と連絡がありました。「悪い結果だろうな」。携帯電話を握りしめたまま、15分くらい固まって動けませんでした。
病院に行くと、女性医師から「がんです」と告げられました。母が肺がんを経験していたこともあり、「亡くなってしまう人もいるけれど、治る病気でもある」と冷静に話を聞くことができました。
子宮も卵巣も摘出
大学病院で検査した結果、子宮頸部の一部を円(えん)錐(すい)状に切除することになりました。主治医が時間をかけて図を描きながら説明してくれたので不安はありませんでした。入院は3泊4日。「この手術で治療は終わり」と思っていました。
でも、病理検査で、腫(しゅ)瘤(りゅう)を形成しない珍しいタイプのがんで、広範囲に広がっていることがわかりました。子宮だけでなく卵巣まで摘出することになり、自分が女じゃなくなるように感じました。ストレスで食事も取れなくなりました。パンがあっても、消しゴムと同じような物体に見えて、食べ物だと思えないんです。
「怖い」ということすら口にできない状態から、立ち直るきっかけをくれたのが6歳上の姉です。病気について聞くことなく、ただそばにいてくれた。姉と出かけたときに思い切って、「手術が怖い」と打ち明けると、「そうだよね」と受け止めてくれた。「がんばらなくちゃだめ」と突き放されていたら、孤独になっていたかもしれません。
1年で4回手術
がんの手術の合併症で腸(ちょう)閉(へい)塞(そく)を起こしてしまい、一時は人工肛門にもなりました。結局、1年で4回の手術を経験しましたが、治療はつらいことばかりではありませんでした。看護師さんと仲良くなれたし、治療を通じて、人との絆やぬくもりを感じられました。
ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」
読売新聞のウェブ版「ヨミドクター」に、わたしたちが行っている「がんフォト*がんストーリー」の活動と、それに付随するキグチのがん・人工肛門経験のお話を掲載していただきました。
とても素敵にまとめてくださっているので、ぜひ一度のぞいてみてください。
読売新聞「ヨミドクター」|「写真が語る、がん闘病のその奥にある温かな心」
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記者の田村さんは、先日の「ペイシェントサロン根津」で、キグチがトークをした回に参加されていました。
その時の議題は「世の中の、病気や障害のイメージを変えるには」。
トークでお話した「人工肛門がありつつ、沖縄の海でビキニを着た」というところが大変印象的だったらしく、その後のディスカッションでも事あるごとに「ビキニ」が登場(注:「ビキニで登場」ではない)。
参加者からも、「個々の受け止め方」「教育」「イベント」など、様々な視点の意見がどんどん出されていました。
しかも難しい議題なのに笑いまくり。楽しい、楽しすぎる。私はそれで、いいと思うのです。
がんや障害は、何も眉間にシワをよせて考えなければいけないものじゃないと思う。
必ずしも、「苦難」として捉えなくてもいいと思う。実際、私は抗がん剤の副作用の脱毛も、人工肛門も、本当に楽しい時間となりました。
楽しめるものだなんて、想像もつかないかもしれません。でも、やってみたらすごく楽しかったのです。また、世の中のイメージを変えるには、「今、関心を持っていない人」にちょっとでも関心を持ってもらうきっかけを作ることが大事。
でも、人に「関心を持ってください」と叫んで関心を持ってもらうなんて、絶対にムリ。
逆の立場なら、絶対に心に残りはしないと思います。
もしかしたら「うるさいなあ」くらい、思ってしまうかもしれない。それならば、関心がない人でも「なにそれ、参加してみたい!」と思うような、何かしらの仕掛けが必要。
何かのイベントに、「参加したい!」と思ったら、どんなに遠くても(たとえ外国でも)「行こう」と思うように、人を惹きつける魅力が必要なのです。そのキーとなるのは、「楽しさ」だと思います。
楽しく道をひらいていく方が、みんなハッピー!「イメージを変える」には、イメージを超えるインパクトが必要。
例えばビキニとか(笑)!
ヨミドクターの中でご紹介いただいた、ブログの「人工肛門シリーズ」は、人工肛門のイメージがぐるっと180度変わること請け合いです。ぜひご一読ください。
平成26年2月から、「ハッピーな療養生活のススメ」というブログを始めました。「がんは怖い」というイメージが強いですが、病気になってもハッピーになれるということを知ってもらいたかった。
治療中でも楽しいことは作れました。体力が落ちて一眼レフのカメラを持つことができなくなりましたが、スマートフォンなら片手が動けば写真が撮れる。点滴用のスタンドとか何気ない風景がかっこよく切り取れました。自分の姿や病院から見える景色…。1年で5千枚撮影しました。
治療がひと段落した26年12月から、大学病院で患者やその家族、医療関係者が撮った写真にストーリーを添えた作品を集めた展示会も病院スタッフと協力して始めました。「笑顔」や「治療中に見つけた素(す)敵(てき)な瞬間」というテーマ。「温かい写真だね」と反響もありました。今は「がんフォト*がんストーリー」という投稿型のオンライン写真展も運営しています。がんになっても、誰かに力を与えることはできるんです。
「命の限り」を意識したことで、自分にとって価値のあることは何かを考えるようになりました。がんになる前より、今のほうが充実した人生を送ることができています。
きぐち・まり 昭和50年生まれ。埼玉県出身。旅行や日本文化を紹介するフォトグラファーやライターとして活動していた平成25年5月、子宮頸がんと診断される。2度の手術後、抗がん剤治療を受ける。経過観察中に合併症で腸閉塞に。一時は人工肛門の生活も経験した。