高次脳機能障害を理解する | 国立障害者リハビリテーションセンター
高次脳機能障害を理解する
高次脳機能障害とは
ケガや病気により、脳に損傷を負うと、次のような症状がでることがあります。
記憶障害
- 物の置き場所を忘れる。
- 新しいできごとを覚えられない。
- 同じことを繰り返し質問する。
注意障害
- ぼんやりしていて、ミスが多い。
- ふたつのことを同時に行うと混乱する。
- 作業を長く続けられない。
遂行機能障害
- 自分で計画を立ててものごとを実行することができない。
- 人に指示してもらわないと何もできない。
- 約束の時間に間に合わない。
社会的行動障害
- 興奮する、暴力を振るう。
- 思い通りにならないと、大声を出す。
- 自己中心的になる。
これらの症状により、日常生活または社会生活に制約がある状態が高次脳機能障害です。
高次脳機能障害診断基準
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害」という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、 この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。
一方、平成13年度に開始された高次脳機能障害支援モデル事業において集積された脳損傷者のデータを慎重に分析した結果、 記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する一群が存在し、 これらについては診断、リハビリテーション、生活支援等の手法が確立しておらず早急な検討が必要なことが明らかとなった。
そこでこれらの者への支援対策を推進する観点から、行政的に、この一群が示す認知障害を「高次脳機能障害」と呼び、 この障害を有する者を「高次脳機能障害者」と呼ぶことが適当である。その診断基準を以下に定める。診断基準
Ⅰ.主要症状等
- 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
- 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
Ⅱ.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
Ⅲ.除外項目
- 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
- 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
- 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
Ⅳ.診断
- I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
- 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
- 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。
「障害の重さと多さにショックを通りこして、医師の言葉がぼんやりとしか耳に入ってきませんでした。話題が自分の息子のことではないような感じでした。」
高次脳機能障害者を支援する
「いきいきセカンド」
高次脳機能障害とは
高次脳機能とは、人間ならではの高度な脳の働き。知識・記憶や言語を関連づけて理解する「認知」「記憶」「行動・遂行」などの能力です。
交通事故や転倒などによる外傷性脳損傷や脳血管障害・脳腫瘍・脳炎・低酸素性脳症などの疾患により高次脳機能に障害が出ている状態を高次脳機能障害と言います。損傷部位により、記憶障害、注意障害、失語、失行など様々な症状が複数現れる場合や、一つだけ現れる場合などがあります。外見では障害があることがわかりにくく、周囲の理解を得られにくいといった問題もあります。高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の原因疾患には、以下のようなものがあります。
●脳外傷
脳外傷で最も多い受傷原因は交通事故で、他に転落、転倒などによるものなどがあります。損傷部位が広範囲に及び障害が複数現れる例も多く見られます。
●脳血管障害
脳梗塞、脳出血、脳卒中、くも膜下出血などが原因となります。重い意識障害に陥るような状態となり、治療の後意識が戻った後で様々な障害が現れることがあります。
溺水や窒息、心筋梗塞、一酸化炭素中毒などによって、一時的に脳に酸素や血液が供給されなかったり、量が少なかったことが原因で発症します。血液が流れていなかった時間、部位によって障害の内容や回復の速度は異なります。
●脳腫瘍
腫瘍が発生した部位や大きさ、良性か否かによって障害は異なります。外科的治療、放射線療法、ホルモン療法などにより障害を引き起こす場合もあります。
●その他
脳炎や脳膿瘍など、細菌やウイルスの脳への侵入により高次脳機能障害が発生することがあります。また、アルコール依存や薬物中毒、ビタミン欠乏症、ホルモン異常などの疾患が原因となる場合もあります。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状には、以下のようなものがあります。
❶ 記憶障害
記憶の中でも、新しいことを覚える記銘力に障害が出ることで、約束を忘る、誤って覚える、日常生活に支障が出ます。
❷ 注意力障害
集中力が低下することで周りの環境に気を取られ、落ち着きがなくなります。ひとつのことに没頭し、並行して作業ができなくなります。
❸ 半空間無視
空間の半分を認識できなくなる場合があります。多くの場合、左側が認識できなくなり、右側ばかりに注意が向きます。
❹ 遂行機能障害
段取りを考えることができなくなります。ひとつひとつ指示されないと行動に移せなく、融通が効きません。
❺ 社会的行動障害
感情のコントロールが効かず、状況に応じた行動が取れません。すぐにイライラしたり、子供っぽくなり対人関係に支障をきたします。
疲れやすくなったり、気力がなくなってひきこもりがちになる場合もあります。❻ 失行
日常生活における動作が困難になることがあります。着替えができなかったり、機械などの操作が上手くできなかったりします。
❼ 失認
色、形、物の使い方や名称がわからなくなる場合があります。また、人の顔が識別できないが、声を聞くとすぐにわかるというような症状が出ることがあります。
❼ 失語
話す、書く、聞く、読むなどの行為に障害が出ます。意思を伝えたり、言われたことを理解することが困難になる場合があります。
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害の行政的な診断基準は下記のように定められています。
Ⅰ. 主要症状等 ❶脳の器質的病変の原因となる交通事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている
❷日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害であるⅡ. 検査所見 MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、診断書により脳の器質的病変が存在したことが確認できる Ⅲ. 除外項目 ❶脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-❷)を欠く者は除外する
❷診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する
❸先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外するIV. 除外項目 ❶Ⅰ~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する
❷高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う
❸神経心理学的検査の所見を参考にすることができるなお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。(国立障害者リハビリテーションセンター)高次脳機能障害の福祉サービス
原因となった疾患や年齢に応じて、様々な制度やサービスがあります。専門スタッフや市区町村の障害福祉担当窓口に相談しながら、適切なサービスを利用しましょう。
サービスの対象者や内容は、自治体により異なることがあります。市区町村の福祉担当窓口にお問い合わせください。
・精神障害者保健福祉手帳
日常生活や社会生活に制約があると診断されれば、「器質性精神障害」として、精神障害者保健福祉手帳の申請対象になります。
・身体障害者手帳
手足の麻痺や音声・言語障害があり、身体障害者程度等級表に該当する場合に、身体障害者手帳の申請対象となります。
・療育手帳
発症が18歳未満で、知的障害と判定された場合に、療育手帳の申請対象となります。障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス
入浴や排泄、食事の支援、創作的活動や生産活動の機会を提供する「介護給付」と、生活の自立や就労をめざす「訓練等給付」があります。詳しくは こちら をご覧ください。
介護保険制度による介護サービス
65歳以上で支援や介護を必要とすると認められた方、あるいは40~64歳で脳血管疾患等の特定疾病により要支援・要介護状態になった方を対象として、介護保険制度による介護サービスが受けられます。
高次脳機能障害のリハビリテーションプログラムには、一般的に次の3つがあります。
●医学的リハビリテーションプログラム
病院や診療所などの医療機関で行う療法です。定期的にカンファレンスを開いて目標や方針を確認しながら評価・計画に基づいて実施します。
●生活訓練プログラム
障害者支援施設が提供するサービスのひとつで、利用者が日常生活能力や社会活動能力を高めるためのプログラムです。生活の安定、積極的な社会参加を目的としています。
●就労移行支援プログラム
一般企業や在宅で就労を希望する利用者を対象に、障害者支援施設が提供するサービスのひとつです。就労に必要な知識や能力を高めるトレーニングや、適性に合った職場探しのほか、就労後の支援などを行います。
いきいき福祉ネットワークセンターでは、福祉サービス事業所として”いきいき*せかんど”を運営しております。自立訓練や就労継続支援B型のサービスを受けられます。詳しくは こちらをご覧ください。
高次脳機能障害者のための就労支援
それぞれの状況に応じて、相談、準備、就職活動、復職、職場定着など、場面に応じた支援サービスを利用することができます。
高次脳機能障害者を対象とした就労準備支援プログラムの中で、高次脳機能障害評価を含む基礎能力評価、模擬的な職務課題による評価、障害の理解を促すグループワークや講習会、代償手段の獲得支援等を行います。
❷区市町村障害者就労支援センター
障害者の就労支援と生活支援を一体的に行い、地域で働くことを支援します。その区市町村在住者等が対象。
❸障害者就業・生活支援センター
障害者の職業生活における自立を図るために、就業とそれに伴う生活支援を行います。障害者と企業と双方に支援を行います。都内に6か所。
❹東京障害者職業センター
障害者カウンセラーが、就職活動の円滑な実施、適切な職業選択、また職場で安定して働き続けられるように相談や助言を行います。また職業能力等の把握、アセスメントを行い、個人の状況に応じた支援計画を策定します。
高次脳機能障害者を対象とした職業訓練。知識・技能の習得に併せて障害特性に応じた個別対応の訓練を行います。在職者を対象とした短期訓練を実施。期間は1年。宿泊施設の利用も可。窓口はハローワーク。
障害者専門の職業相談窓口があり、職業相談、職業紹介、求人開拓、就職後の定着まで、一貫した支援を行っています。
❼就労移行支援・就労継続支援事業所
適性に合った職場への就労が見込まれる方を対象に、知識・能力の向上をはかります。利用期間は2年間。集中力・持続力の習得訓練、基礎体力向上、職場見学、一般企業での実習、就職活動やトライアル雇用を行います。
※当施設では自立訓練(生活訓練)のプログラムを提供しています。詳しくはこちらを⇒
就労継続支援は、一般企業等での就職が困難な方が、生産活動を通じて知識と能力向上のため訓練を行います。事業所と雇用契約を結び、最低賃金を保障する「雇用型(就労継続支援A型)」と、契約を結ばない「非雇用型(就労継続支援B型)」があります。利用期限なし。
※当施設のいきいき*せかんど(高次脳機能障害のための障害福祉サービス)でも就労継続支援B型のプログラムを提供しています。
相談できる窓口は増えた。
受け皿がまだまだ少ない。
「笑い太鼓」
社会福祉施設のあらまし » NPO法人「笑い太鼓」高次脳機能障害者支援センター
高次脳機能障害者の社会参加を支援することを目的に、1998年から活動をはじめ今日に至っています。今では豊橋市のほかに豊川、岡崎、蒲郡といった他市からの利用者も合わせ、毎日40名の方がご利用になっています。
交通事故や転落事故、脳梗塞、くも膜下出血などの病気が原因で、脳にダメージを受けて記憶に障害がある、集中して物事に取り組めない、順序だてて物事が進められないなど、一見してわかり難い障害をお持ちの方たちに対し、作業を通してもう一度社会人としての復帰を図ることを目的に、就労支援、生活支援を行っています。
「笑い太鼓」という名前は、たとえ障害をもっても笑って太鼓の響きのように力強く生きていきたいという願いや、前向きに生きていける世の中を作り出していくこと、ひらがなで書いて「わらいたい子=笑い太鼓」という親の気持ちをこめてつけました。