若年性認知症は65歳未満で発症する認知症の総称。厚生労働省の研究班が平成21年に発表した調査結果によると、国内の推定患者数は約3万7750人に上る。
症状はさまざま。
記憶障害。
日付や時間、自分のいる場所が分からなくなる「見当識障害」。
同じ行為を繰り返す「常同行動」。
段取りができない「実行機能・遂行機能障害」などが知られる。
病気が進行すると歩行困難などの症状が出ることもある。
若年性認知症、症状が出た家族に、どう向き合えばいいのか。
2つの家族を紹介している。
https://www.sankei.com/images/news/150920/prm1509200036-p2.jpg
- ①携帯なくし、勤務先で迷子…夫の異変から10年
- 「大切な存在と思い続ける」
- 手帳に増えるカタカナ「逆に回る時計、どう受け止めたら」
- 無邪気になった夫「みっともなくない、生き続けて」
- 「プラスに考える」 医師になった次女、父と患者重ね
- ②「病気だからしゃあない」 変わってしまった妻戸惑い
- できることが笑顔つくる 闘わない 一緒に生きていく
①携帯なくし、勤務先で迷子…夫の異変から10年
「大切な存在と思い続ける」
最初に誉一郎の異変を感じたのは平成18年の3月。
幸子が東北地方の大学に通うため、引っ越しの手伝いに行ったときのことだ。新幹線の切符を何度もなくし、得意だったインターネットの接続もできない。荷物の整理をしても、すぐ飽きてしまう。
医師に呼び出された。「前回、ご主人に書いてもらった『時計』です」。
医師に渡された紙には、長針も短針もない、時計と似つかぬ図形が描かれていた。「初期のアルツハイマー型認知症」との告知を受けた。
手帳に増えるカタカナ「逆に回る時計、どう受け止めたら」
病と向き合う誉一郎の心情が克明に描かれている。
「この病気は怖いものだ。おちつけ、もう一度、よく考えろ、思い出せ」
「悲観することなく、いじけず、頑張る、それしかない」
「皆々に多大な迷惑をかけている」…。
日記は日を追うごとに、空欄やカタカナが増え始める。
「ドウスレバ、カンジを書ケルヨウニナルだろう イッショーコノママカ」…。手帳の文字は、23年3月15日で途絶えていた。
できないことが格段に増える。
いらだちは家族に向けられた。
「死にたい」「最低だ」と叫んでは、頭を壁に打ち付ける。
リモコンや家具を投げつける。
出勤前に慌ただしく準備をする家族に「忙しぶってるなら、早く出て行け」と怒鳴り、また暴れた。
帰省した娘にも怒声を浴びせ、ひとしきり暴れると、暴れたことも忘れた。
無邪気になった夫「みっともなくない、生き続けて」
入院当初、荒れようはひどかった。
「こんなひどい仕打ちをするとは思わなかった」
「家に帰したくないなら来るな」。
テレビの特集で、配偶者につきっきりで献身的に介護をする認知症の家族を見ると「なぜ、自分にはできなかったのか」と落ち込んだ。
「今のあなたは、あなたが恐れていたようにみっともなくないよ。人に迷惑をかけていないし、みんなに好かれています。だから、安心して生き続けて」
「プラスに考える」 医師になった次女、父と患者重ね
(娘の)勤務する病院には精神科もあり、自ら通報して運ばれてくる精神疾患患者、認知症患者も多い。
生命に直結するけがもなく、話が通じにくい患者は、冷たく扱われがちだ。
「本人はつらくて来ているんだから、もう少し思いやりがあってもいいのに」。
茜は複雑な気持ちになる。若年性認知症の父の姿と、ダブらせてしまう。
②「病気だからしゃあない」 変わってしまった妻戸惑い
やがて、「もう生きてても仕方ない」と口にするようになる。
妻の体を抱えて「大丈夫、大丈夫」と励ます夫にも先は見えなかった。
「このまま2人でつぶれていくんかな…」
できることが笑顔つくる 闘わない 一緒に生きていく
ある男性患者に教えられたことがある。
「認知症という病気は闘ってもいいことはない。一緒に生きていくんだ」。
はっとさせられた。