はじめに
認知症の人が、不幸にして事故を起こしてしまう。
そんな万が一の事態への救済策を、独自に用意する自治体が出てきました。
行方不明になったときの捜索費用をまかなう民間保険など、保険各社からも新商品や新特約が続々と登場しています。
認知症になっても安心して暮らすには、どんなリスクへの備えが必要か。皆さんと考えます。
安心して外出できるまちに
「ひとり歩きによる行方不明を防ぐために、地域の見守り合う体制を作れば子供からお年寄りまで地域全体でつながるし、防犯目的にもなる。やりたくもない脳トレなどの予防プログラムよりも、みんなで楽しく語り合える・集える、そんな街にしていこうではありませんか! 脳の老化現象が認知症なのですから、怖がらずともに生きていける準備をしましょう」(京都府・50代男性)
「例えば認知症カフェなどの集団援助の場所を作っても、大勢の人が苦手な人には苦痛でしかない。おのおのの個性や希望に応じた過ごし方ができるように、早い時期から経済的や物理的な援助が受けられると良いと思う。特に家族がいない、いても孤独な老人について、認知症の発見や治療は後手後手となり、サポートが必要。家族、経済的に恵まれ、ケアマネや民生委員と仲良し、なんて人が実際には手厚いサポートを受けられるのを見ていると、逆なのではないかと思うことも多い」(京都府・50代女性)
(フォーラム)認知症、前を向くために:4 リスクに備える:朝日新聞デジタル
より引用。
「神戸モデル」の紹介
事故被害者・加害者を市が救済
認知症の人が起こした事故の被害者と加害者双方を自治体が救済する全国初の仕組みが、2019年度から神戸市で始まった。
「神戸モデル」と呼ばれる制度の要点をまとめました。
まずは早期受診を促す助成制度です。
65歳以上の神戸市民は、自己負担ゼロで認知症の検診・精密検査が受けられます。
認知症と診断されたら、市が保険料を負担し、最高2億円の賠償責任保険に加入します。
認知症の人が起こした事故(自動車事故は対象外)や火災などで市民が被害にあった場合は、加害者側の賠償責任の有無にかかわらず、被害者に給付金(最高3千万円)を支給。
賠償責任が認められた場合には、上記の賠償責任保険に加入していれば最高2億円の賠償金を保険から支払います。
コールセンターが24時間対応で事故の相談に応じます。
民間保険の保険料など年約3億円の費用は、市民税の上乗せ(1人年間400円)でまかないます。
市議会では負担増に反対意見もでましたが、市側は将来世代に負担を先送りすべきではないなどと説明し、理解を求めました。
寺崎秀俊副市長は「まずは早期受診。診断を受けると賠償保険加入というメリットがあると伝えたい。
不幸にして事故が起きても救済策があります。認知症の人が閉じこもることなく、安心して外出できる環境づくりが大事だと考えています」と狙いを説明します。
・条例や診断助成制度、事故救済制度について記載されています。
・65歳以上の方、認知症の診断料無料。
神戸市 認知症の人にやさしいまち『神戸モデル』|認知症診断助成制度
・「神戸モデル」4つのポイントがまとめられている。
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/7135/kobemodel4p_1.pdf
認知症の人の事故や、第三者への賠償責任に関心が高まったのは、愛知県で認知症の男性が列車にはねられた事故がきっかけでした。
JR東海が、振り替え輸送費など約720万円の損害賠償を家族に求めたのです。
2016年の最高裁判決は、同居の妻ら家族に賠償責任はないとしましたが、事情によっては家族も責任を負う余地を残しました。
こうした場合の公的補償については、国も関係省庁の会議で検討したものの、
結論は「見送り」に。
そんな中、神戸市議会は今月5日、この神戸モデルの実施を盛り込んだ
「認知症の人にやさしいまちづくり条例」改正案を可決しました。
久元喜造市長は記者会見で
「国があきらめた課題でも、自治体は取り組む価値がある」と話す一方で、
「本来は国でやっていただきたい。神戸市の取り組みを参考にして、国民全体を対象とした制度を国の責任で構築していただきたい」と求めています。
当事者向け保険
捜索費用の保証
認知症の人が行方不明で捜索が必要な状況になってしまった。
そんなときの懸念を軽減する保険も登場しています。
「認知症になる前ではなく、なった方が加入できる保険」。
「認知症あんしんプラン」の特徴を、東京海上日動火災保険の担当者はそう説明します。認知症の人と家族の会(本部・京都市)のアンケートに協力。
寄せられた声から浮かんだ不安の解消を目指して開発したといいます。
認知症あんしんプラン | 東京海上日動あんしんコンサルティング
「業界初」とアピールするのは、外出して行方不明になった時の捜索費用を補償すること(1回30万円が上限)。
タクシー代などの交通費や、捜索を頼んだときの人件費などが想定されています。
認知症の人の行方不明届は年々増えており、警察庁によれば2017年には約1万5800人に達しました。
認知症の人と家族の会の阿部佳世事務局長は「親類や施設の人に捜索を手伝ってもらったり、遠くの警察署に迎えに行ったりするときの交通費などが意外にかかっている。認知症の人が安心して生活できる社会のために、いざというときの保険は助けになると思う」と話します。
認知症の人が他人にけがをさせたり、線路に入って電車をとめてしまったりした場合の賠償責任の補償(1事故1億円が上限)もついています。
保険料は月1300円。40歳以上の認知症の人が対象です。
自動車保険特約
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は、認知症の予備群とされる軽度認知障害(MCI)と診断された段階で保険金の一部を払う商品「笑顔をまもる認知症保険」を発売しました。まだ認知症ではないMCI段階で払うのは、早期受診・対応を促すためです。
認知症保険 笑顔をまもる認知症保険 - 特徴 | SOMPOひまわり生命
認知症リスクにも手厚く備える 終身介護・認知症プラン | 三井住友海上あいおい生命保険
は、特約を自動車保険に新設します。事故を起こしたドライバーが認知症で「責任能力がない」とされた場合、家族らが監督義務者として賠償責任を負うときは、補償対象に含めると明確にしました。さらに、一人暮らしなどで監督義務者がいない場合も、被害者に賠償金を払います。同社は「救済されない被害者が発生するのを防ぐ」としています。
(フォーラム)認知症、前を向くために:4 リスクに備える:朝日新聞デジタル
より引用。(編集委員・清川卓史さん)