はじめに
高齢化社会を迎え、「認知症」を患う高齢者の増加が危惧されていますが、そもそも認知症とははっきりと「病気」であるといえない側面があります。
加齢し高齢になればだれでも認知機能の低下はありえます。
また、そもそも原因も分からず、治療や予防も確立していません。
しかし、社会は十分に認知症を理解していません。
今、多くの専門家や患者自身からも警鐘の声が上がっています。
下記に、東京都立松沢病院病院長の斎藤正彦さんの意見をまとめます。
朝日新聞にインタビューが出ていました。
医療者ほど認知症を理解していない
と考える医療者がいる。
それは誤りで、傲慢(ごうまん)な発想です。
それまで当たり前にできていた料理がうまくつくれない、なぜいま自分がここにいるのかわからない――。そんなとき、だれよりも不安や恐怖を感じているのは患者さんご本人です。そしてそのつらさは、体験している本人しかわからない。
上記のことを理解していない医療者に、まともな認知症のケアなどできません。
薬より「伴走」患者ごとに
「薬の力で治してほしい」。認知症となった人や家族の多くが抱く願いです。しかし、いま使われている認知症の薬には効果に限界があります。
「周囲に言いたいことが言えず、自分で自分を責めてしまって」
「こころの不調には気候の急な変化も関係します。あなたが悪いわけではありませんよ」
大阪市の認知症専門クリニック、松本診療所。ピンクの長袖ポロシャツを着た院長で精神科医の松本一生(いっしょう)さんが、外来で訪れる患者にゆったりと話しかけます。
重視するのは、認知症によって低下した機能をみつつ、しっかり残っているところを見つけて、「あなたの本質は変わっていません」というふうに伝えることだそうです。患者の不安に寄り添うのが目的です。
「たとえ治らなくても、本人が病気と向き合えるよう『伴走』するのが私の役割」
薬の効果は40人に1人だけ
「よく効いたと判断できるのは40人に1人くらい。ほとんどの人にとっては意味がありません」と、兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田陽彦(はるひこ)・認知症疾患医療センター長
抗認知症薬を使うなら、対象のアルツハイマー病などであることを見極めるのが前提になります。ところがそのための事前の検査が十分になされていないという実態も今年、医療経済研究機構などの調査で明らかになり、「薬が安易に処方されているのでは」という指摘もある。
医療者の大切な役割
いまの抗認知症薬は、脳の一部の機能を一時的に元気にしているに過ぎません。そんな中、医師の重要な役割はご本人の不安と向き合うことです。取りのぞけなくても、不安をわかろうと努力していることを伝える。そのために、家族ではなくご本人に直接、何か困っていることがないかを聞くようにしています。そうして長く付き合ううち、「あの医者と話すと楽になる」と思ってもらえたらいい。
脱医療化も考える
50代など、比較的若いうちに発症するタイプに関しては、治療のための研究をさらに進める必要があります。しかし、90歳を超え、認知機能が下がったといっても正常な老化とほとんど変わらない人にも抗認知症薬がたくさん処方され、疑問を感じます。そんな人には経過を注意しつつ、すぐには薬を出しません。超高齢の方には余計な医療で負担をかけない「脱医療化」も考えるべきです。